コラム

不倫の開始前に慰謝料請求者の婚姻関係が破綻していたという主張

相手の配偶者と不貞行為をしていたのは事実であるが,不貞関係の開始時点で既に慰謝料請求者らの婚姻関係は破綻していた,又は破綻していたと聞いていたから,自身は責任を負わないという反論が考えられます。

この反論は現実として成り立つものかを考える必要があります。

1 不貞開始前に婚姻関係が破綻していたか

  1. (1) 最高裁判例でも,不貞関係の開始時点で既に慰謝料請求者の婚姻関係が破綻している場合には慰謝料支払義務は負わないという考えになっています。
    問題は,どのような事情があれば,慰謝料請求者の婚姻関係が破綻していたといえるかになります。
  2. (2) まず,慰謝料請求者が配偶者と同居を継続している場合は,家庭内別居やDV等の事情があったとしても,その夫婦の婚姻関係が破綻していたということは難しいかと思います。
  3. (3) では,慰謝料請求者が配偶者と別居をした後に不貞関係になったのであれば必ず慰謝料支払義務は免れるのでしょうか。
    別居開始直後に不貞関係を開始していたのであれば,その夫婦の婚姻関係が既に破綻していたとは中々評価されず,慰謝料支払義務を免れるのはなかなか厳しいかと思います。では,どれくらいの別居期間があれば破綻していたという話になりますが,一般的には3年間別居が継続していれば破綻していたと評価されやすいかと思います。ただ,この3年という数字は絶対的なものではなく,相手の婚姻期間の長さと比べて別居期間がどうかという形で婚姻関係の破綻と評価できるかが決まってくるかと思います。例えば,婚姻期間が1年であれば,半年の別居でも婚姻関係は既に破綻していたと評価される可能性があるかと思います。他方,婚姻期間が25年であれば,別居期間3年でも裁判官によっては婚姻関係の破綻は生じていないと評価される可能性があります。
    後は相手夫婦の別居の経緯・事情とかも重要になります。不貞以外の要因,例えば,DV等の事情により相手夫婦が別居したというような事情があれば,別居期間の長さと合わせて婚姻関係が既に破綻していたといえる可能性があります。
  4. (4) このように,不貞開始前に婚姻関係が破綻していたから慰謝料支払義務はないという主張の成立は現実的には中々難しい面があります。
    他方,DV等の不貞以外の要因があったり,短期でも別居期間が不貞開始前にあれば,元々相手夫婦の婚姻関係は悪化していたとして,慰謝料の減額要素となることは裁判でも多々ある印象です。

2 不倫関係になる前に相手夫婦の婚姻関係が破綻していると信頼していた場合

  1. (1) 不貞行為をするにあたって不貞配偶者から「夫婦関係は既に終わっている」「離婚の話が進んでいる」等の言葉を信頼して実際に関係を持ったから,故意・過失がないとして自身は責任を負わないという主張も多々あります。
    相手夫婦の婚姻関係の破綻を信頼していれば,慰謝料支払義務から免れるのでしょうか。
  2. (2) 結論からいうと,特に不貞配偶者の言葉を信頼していただけでは責任を免れることはないです。金額の減額自体も特に裁判では難しい印象があります。
    実際に相手夫婦の婚姻関係が破綻していると誤信してもやむをえないような事情,例えば,不貞配偶者が単身赴任していたために相手夫婦の別居という外形があり,かつ,配偶者との関係が悪く別居しているという不貞配偶者の言動があり,かつ,単身赴任先の室内でも夫婦での生活の実態がないというような場合に,慰謝料の減額要素となる可能性が出てきます。