コラム

離婚後の養育費の支払が滞納した場合の対処

離婚の際に未成年の子どもがいる場合、離婚後の養育費の分担について一定の合意をすることが多いと思います。しかし、離婚後しばらくの間は養育費の支払いがあっても、時が経つと養育費の支払が滞ることがあります。支払いが数日遅れたくらいなら大したことはないでしょうが、数か月以上滞納して、一切支払う気配が見えなくなってしまうこともあります。
実際に養育費の支払いが途中から止まってしまうことも多く、離婚の際に一定の合意をしても、結局、途中から支払いを受けられなくなっている人がたくさんいます。督促をしても無視をされることは多々あります。この場合には相手の給与や預金の差押えをするいわゆる「強制執行」という手続を検討することになります。強制執行をするためには債務名義が必要になります。債務名義の例としては,確定判決,裁判上の和解調書,調停調書,審判,公正証書等があります。

1 公正証書の作成

先ほど説明した債務名義の中で最も簡易な方法で取得できるものが「公正証書」です。確定判決、調停調書、確定審判等は、裁判・調停・審判等の手続を経なければ取得することができません。しかし、「公正証書」は、当事者間で合意した内容に基づいて公証人が作成しますので、合意さえすればスピーディーに取得することができます。
公正証書があれば、養育費の滞納が生じたとしても、裁判・調停・審判等の裁判所を介した手続を経ることなく、相手方の財産について強制執行を申立てることができます。
なお、念のための注意ですが、公正証書は当事者間だけで交した契約書と同一ではありません。あくまで「公証人役場」にいる「公証人」が作成するものです。「契約書があるので強制執行できる」ということにはなりません。公正証書作成の注意点としては,養育費の支払いに関する公正証書(執行証書)を作る際に、「Aは、・・・○○円を支払う。」という条項を設けることになりますが(これを「給付条項」といいます。)、この給付条項にキチンと「養育費として・・・支払う。」と記載しなければならないことです。理由は後で述べます。

2 養育費調停

養育費の支払いについて当事者間で合意していたとしても、公正証書(執行証書)を作成していない場合、その合意に基づいて、いきなり相手方の財産を差し押さえることはできません。
このような場合、養育費支払いに関する合意(養育費支払契約)に基づいて、相手方に金銭の支払いを求める訴訟を提起することも考えられます。しかし、訴訟は費用と時間がかかりますので、いきなり訴訟を提起するというのは、一般的には得策ではありません。
そこで、まずは、訴訟よりもソフトな手続である「調停」を申し立てることが考えられます。具体的には、家庭裁判所に対して養育費調停を申し立て、相手方(支払義務者)との間で養育費の支払義務を確定させるのです。養育費調停は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所に対して申し立てを行います。
養育費調停の手続では、裁判所の調停委員が当事者の間に入り、養育費の金額や支払方法等について話し合いをすすめていきます。この調停手続で、当事者が合意に至れば調停が成立し、その合意内容が「調停調書」に残されます。そして、この調停調書が「債務名義」になることは、すでに説明したとおりです。

3 調停が成立しない場合

調停手続において話し合いがつかない場合は、調停が不成立となります。また、養育費調停を申し立てても、相手方(支払義務者)が裁判所に出頭せず、話し合いすらできない場合も、調停は不成立になります。調停不成立の場合、そこで終わりではなく、家庭裁判所の審判手続に移行します(家事事件手続法272条4項)。また、場合によっては、調停不成立の段階で、裁判所の職権により「調停に代わる審判」を下すこともあります(同法272条1項ただし書)。審判では、裁判所が妥当な養育費の金額を決定してくれるので、一定の解決をみることができます。もっとも、審判に不服がある者は、審判の告知を受けた日から2週間を経過するまでの間、即時抗告をすることができます(家事事件手続法86条)。この2週間の間に即時抗告がない場合、その審判は確定します(同法74条2項ただし書き)。そして、確定した審判が「債務名義」になることは、すでに説明しました。

4 強制執行手続の流れ

「債務名義」があれば、相手方の財産について強制執行をすることができます。強制執行の対象は、相手方名義の財産になります。
強制執行の種別は、不動産執行、債権執行等いくつかあるのですが、養育費の場面では債権執行が多いと思います。債権執行の場合、例えば、預貯金、生命保険、給料債権等があります。この点、不動産執行も考えられますが、申立ての際、不動産の価格に応じて予納金を納付する必要がありますので注意が必要です。
強制執行の申立先(管轄)は、債権執行の場合は相手方(支払義務者)の住所地を管轄する地方裁判所(支部を含む)になります。不動産執行の場合は、目的不動産の所在地を管轄する地方裁判所(支部を含む)になります。

5 給与差押えについて

相手方の勤務先を把握していれば給与差押えが可能です。

① 毎月差押えの申立ては不要

法律では、養育費債権といった扶養義務等の定期金債権(一定の期間、定期的に支払いを受けることを目的とする債権)について、その一部に不履行(支払が滞ること)があれば、将来弁済期が到来する分についても債権執行(債権に対する強制執行)を開始することができるという「特例」を設けています(民事執行法151条の2)。給与差押えの場合、この特例を使えば、毎月毎月、強制執行の申立てをする必要はなくなります。つまり、一度申立てを行えば、その後は毎月強制的に養育費を回収することができます。もっとも、将来の養育費債権に基づく強制執行は、その弁済期が到来した「後」に「弁済期が到来する給料債権」のみを差し押さえることができます。例えば、「毎月1日限り10万円を支払う」という場合で、相手方の給料が25日に支払われるというとき、その月の養育費については、同月25日以降に支払われる給料を差し押さえることになります。ここでの注意点は,養育費の支払いに関する公正証書(執行証書)を作る際に、「Aは、・・・○○円を支払う。」という条項を設けることになりますが(これを「給付条項」といいます。)、この給付条項にキチンと「養育費として・・・支払う。」と記載しなければならないことです。この特例を用いることができる債権は「養育費」等に限定されていますので、金銭支払義務の法的性質が養育費支払義務に基づくものであることを示さなければならないのです。例えば、「解決金として・・・支払う。」などとした場合、その金銭支払義務の法的性質が養育費支払義務に基づくものであることは分からないので、この特例を使うことはできないということになります。

② 給与差押えの可能な範囲

法律の条文では、「2分の1に相当する部分は、差し押さえてはならない。」(民事執行法152条1項・3項)と規定しています。差押えが禁止される額は、いわゆる「手取額」(源泉徴収される給与所得税・住民税・社会保険料を差し引いた分)を基準に算定されます。例えば、手取りの月給が20万円の場合、10万円までを差し押さえることができます。
もっとも、給料の2分の1が「33万円」を超える場合、33万円以上の部分も差し押さえることが可能です(手取り給与額-33万円につき差押可能)。