コラム

妊娠中絶を理由とする慰謝料請求

交際相手との性交渉は双方の同意の上で行われるのが通常です。したがって,妊娠したことは双方の同意の上での行為によるものといえます。
また,妊娠中絶することについても,相手が妊娠中絶を要求し,これに応じて行ったとすれば,妊娠中絶も同意の上での行為ということになります。
したがって,原則的には権利侵害行為がないため,たとえ中絶により精神的・肉体的苦痛が生じていたとしても,男性に対して慰謝料の支払いを求めることはできません。

1 中絶による慰謝料請求ができる場合

レイプされた場合,実際には避妊していないのに避妊していると嘘を言って性交渉に臨んだ場合,婚約して性交渉をしたのに実際には妻がいるため中絶を求められた場合は,性交渉自体が権利侵害行為にあたる,あるいは,嘘を言ったことが権利侵害行為にあたるといえる可能性があり,慰謝料を請求できる場合があります。

それでは,上記以外の場合には全く慰謝料の支払いを求められないのでしょうか。
このような場合でも,慰謝料を認めた東京高等裁判所の裁判例(東京高判平成21年5月27日判時2108号57頁)があります。
同裁判例は,双方が合意の上で性行為におよんだ結果,妊娠したからといってそれ自体が不法行為を構成することはないことを前提としつつ,女性は妊娠により直接的に肉体的及び精神的苦痛を受け,さらに経済的負担を受けるのであるから,男性としては,その不利益を軽減し,解消するための行為をする義務があるとして,男性に妊娠後にこのような行為義務を認めています。そして,同裁判例では,子を産むかどうするかについて,男性が具体的な話し合いをせず,子を産むか,中絶手術を受けるかどうかの選択を女性の側にゆだねるのみであったなどの事情から,男性の義務違反を認定し,慰謝料合計200万円の半額の100万円の支払いを男性に命じています(さらに中絶のための診療費用等についても半額の支払いを認めています。)。この裁判例を一般化できるか疑問はありますが,中絶により慰謝料請求が認められる余地はあるということになります。妊娠の報告を受けた男性がその後何の応答もせず放置した場合,妊娠の報告に対して一方的に中絶するように伝えるだけで話合いに応じない場合は請求の余地がある可能性があります。

2 慰謝料の相場

慰謝料の額については,性交渉自体が合意によるものではなく,レイプなどの権利侵害行為にあたる場合には高額になる傾向があります。200万円以上、場合によっては1000万円近くの慰謝料を請求ができる可能性もあります。
他方、その他の場合、例えば結婚を前提に交際し、性交渉をしたのに実際には妻がいるため中絶を求められた場合、「妻とは離婚する」といって性交渉に及んだのに妊娠したとたん中絶を求められ別れるといわれた場合などは、それより低額になる場合が多いです。
また,先程の東京高等裁判所の裁判例は特異な例ではありますが,慰謝料の総額を200万円と認定し,その半額の支払いを命じています。

3 女性が中絶をせずに出産という選択をした場合の男性の責任

女性としては男性に子の認知を求め,養育費の請求をしてくる可能性があります。まず,男性としては女性が妊娠した子が本当に自分の子であるかDNA鑑定をする等の確認は必要ですが,鑑定上子と男性が父子関係と認められた場合は認知に応じざるをえないでしょう。認知を拒否していても調停・訴訟でいずれかは認知をすることになります。認知後は未成年の子については養育費支払義務が発生しますから,算定表等に従って養育費を請求することになります(詳細は養育費の項参照)。