離婚後の養育費の支払が滞納した場合の対処

離婚の際に未成年の子どもがいる場合、離婚後の養育費の分担について一定の合意をすることが多いと思います。しかし、離婚後しばらくの間は養育費の支払いがあっても、時が経つと養育費の支払が滞ることがあります。支払いが数日遅れたくらいなら大したことはないでしょうが、数か月以上滞納して、一切支払う気配が見えなくなってしまうこともあります。
実際に養育費の支払いが途中から止まってしまうことも多く、離婚の際に一定の合意をしても、結局、途中から支払いを受けられなくなっている人がたくさんいます。督促をしても無視をされることは多々あります。この場合には相手の給与や預金の差押えをするいわゆる「強制執行」という手続を検討することになります。強制執行をするためには債務名義が必要になります。債務名義の例としては,確定判決,裁判上の和解調書,調停調書,審判,公正証書等があります。

1 公正証書の作成

先ほど説明した債務名義の中で最も簡易な方法で取得できるものが「公正証書」です。確定判決、調停調書、確定審判等は、裁判・調停・審判等の手続を経なければ取得することができません。しかし、「公正証書」は、当事者間で合意した内容に基づいて公証人が作成しますので、合意さえすればスピーディーに取得することができます。
公正証書があれば、養育費の滞納が生じたとしても、裁判・調停・審判等の裁判所を介した手続を経ることなく、相手方の財産について強制執行を申立てることができます。
なお、念のための注意ですが、公正証書は当事者間だけで交した契約書と同一ではありません。あくまで「公証人役場」にいる「公証人」が作成するものです。「契約書があるので強制執行できる」ということにはなりません。公正証書作成の注意点としては,養育費の支払いに関する公正証書(執行証書)を作る際に、「Aは、・・・○○円を支払う。」という条項を設けることになりますが(これを「給付条項」といいます。)、この給付条項にキチンと「養育費として・・・支払う。」と記載しなければならないことです。理由は後で述べます。

2 養育費調停

養育費の支払いについて当事者間で合意していたとしても、公正証書(執行証書)を作成していない場合、その合意に基づいて、いきなり相手方の財産を差し押さえることはできません。
このような場合、養育費支払いに関する合意(養育費支払契約)に基づいて、相手方に金銭の支払いを求める訴訟を提起することも考えられます。しかし、訴訟は費用と時間がかかりますので、いきなり訴訟を提起するというのは、一般的には得策ではありません。
そこで、まずは、訴訟よりもソフトな手続である「調停」を申し立てることが考えられます。具体的には、家庭裁判所に対して養育費調停を申し立て、相手方(支払義務者)との間で養育費の支払義務を確定させるのです。養育費調停は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所に対して申し立てを行います。
養育費調停の手続では、裁判所の調停委員が当事者の間に入り、養育費の金額や支払方法等について話し合いをすすめていきます。この調停手続で、当事者が合意に至れば調停が成立し、その合意内容が「調停調書」に残されます。そして、この調停調書が「債務名義」になることは、すでに説明したとおりです。

3 調停が成立しない場合

調停手続において話し合いがつかない場合は、調停が不成立となります。また、養育費調停を申し立てても、相手方(支払義務者)が裁判所に出頭せず、話し合いすらできない場合も、調停は不成立になります。調停不成立の場合、そこで終わりではなく、家庭裁判所の審判手続に移行します(家事事件手続法272条4項)。また、場合によっては、調停不成立の段階で、裁判所の職権により「調停に代わる審判」を下すこともあります(同法272条1項ただし書)。審判では、裁判所が妥当な養育費の金額を決定してくれるので、一定の解決をみることができます。もっとも、審判に不服がある者は、審判の告知を受けた日から2週間を経過するまでの間、即時抗告をすることができます(家事事件手続法86条)。この2週間の間に即時抗告がない場合、その審判は確定します(同法74条2項ただし書き)。そして、確定した審判が「債務名義」になることは、すでに説明しました。

4 強制執行手続の流れ

「債務名義」があれば、相手方の財産について強制執行をすることができます。強制執行の対象は、相手方名義の財産になります。
強制執行の種別は、不動産執行、債権執行等いくつかあるのですが、養育費の場面では債権執行が多いと思います。債権執行の場合、例えば、預貯金、生命保険、給料債権等があります。この点、不動産執行も考えられますが、申立ての際、不動産の価格に応じて予納金を納付する必要がありますので注意が必要です。
強制執行の申立先(管轄)は、債権執行の場合は相手方(支払義務者)の住所地を管轄する地方裁判所(支部を含む)になります。不動産執行の場合は、目的不動産の所在地を管轄する地方裁判所(支部を含む)になります。

5 給与差押えについて

相手方の勤務先を把握していれば給与差押えが可能です。

① 毎月差押えの申立ては不要

法律では、養育費債権といった扶養義務等の定期金債権(一定の期間、定期的に支払いを受けることを目的とする債権)について、その一部に不履行(支払が滞ること)があれば、将来弁済期が到来する分についても債権執行(債権に対する強制執行)を開始することができるという「特例」を設けています(民事執行法151条の2)。給与差押えの場合、この特例を使えば、毎月毎月、強制執行の申立てをする必要はなくなります。つまり、一度申立てを行えば、その後は毎月強制的に養育費を回収することができます。もっとも、将来の養育費債権に基づく強制執行は、その弁済期が到来した「後」に「弁済期が到来する給料債権」のみを差し押さえることができます。例えば、「毎月1日限り10万円を支払う」という場合で、相手方の給料が25日に支払われるというとき、その月の養育費については、同月25日以降に支払われる給料を差し押さえることになります。ここでの注意点は,養育費の支払いに関する公正証書(執行証書)を作る際に、「Aは、・・・○○円を支払う。」という条項を設けることになりますが(これを「給付条項」といいます。)、この給付条項にキチンと「養育費として・・・支払う。」と記載しなければならないことです。この特例を用いることができる債権は「養育費」等に限定されていますので、金銭支払義務の法的性質が養育費支払義務に基づくものであることを示さなければならないのです。例えば、「解決金として・・・支払う。」などとした場合、その金銭支払義務の法的性質が養育費支払義務に基づくものであることは分からないので、この特例を使うことはできないということになります。

② 給与差押えの可能な範囲

法律の条文では、「2分の1に相当する部分は、差し押さえてはならない。」(民事執行法152条1項・3項)と規定しています。差押えが禁止される額は、いわゆる「手取額」(源泉徴収される給与所得税・住民税・社会保険料を差し引いた分)を基準に算定されます。例えば、手取りの月給が20万円の場合、10万円までを差し押さえることができます。
もっとも、給料の2分の1が「33万円」を超える場合、33万円以上の部分も差し押さえることが可能です(手取り給与額-33万円につき差押可能)。

離婚後の養育費

1 養育費について

親は子どもに対して扶養義務を負っています(民法877条1項)。この扶養義務の程度については,「自分の生活を保持するのと同程度の生活を被扶養者にも保持させる義務」(生活保持義務)があるといわれています。そして,親は,未成年の子に対する扶養義務として,子どもが生活するために必要な費用である「養育費」を負担する義務があります。逆を言えば,原則として親は,成人に達した子供に対して,監護費用分担義務としての養育費の支払いをする必要はありません。

養育費は,上記の通り,「生活保持義務」として履行されるものですから,その支払われる金額は,親の収入によって変わると考えられています。養育費の具体的内容としては,食費,衣類費用,学費等の様々な費用が含まれていますが,「この費用は含まれる」「この費用は含まれない」といった形で明確に区分けすることはできません。家庭ごとに,教育の考え方やそれに伴う経済事情も異なりますから,養育費の内容もそれに応じて変わってくるものと思います。養育費の算定にあたっては,裁判所から一定の算定表が公表されています。http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf

 

2 算定表や原則通りに養育費は決定してしまうのか

調停等では,上記の算定表を基準に考えることになりますが,全ての事件において,算定表に100%縛られて養育費を算定しているわけではありません。
以下では,養育費の具体的内容に関して,紛争になった場合にしばしば問題となり得る事項を説明していきます。

①私立学校の学費

子どもの養育費の算定に当たっては,公立中学校・公立高校の学費は当然考慮されますが,私立中学校・私立高校の学費まで考慮されるのかという問題があります。
この点については,分担義務者(肩親)が私立学校への進学を承諾していたり,分担義務者の経済状況に照らして,私立学校の学費を一定額負担させるべきという場合があります(算定表から算出される養育費に私立学校における学費等を考慮して修正した事例として,大阪高裁決定平成26年8月27日)。

②大学の学費

大学の学費についても,私立学校の学費で説明したのと同じように考えられます。

③成人に達した子どもの生活費・学費

親は成人に達した大学生の子どもに対して学費・生活費を支払わなければならないかという問題があります。
この点については,昨今の大学進学率の高さからすれば,親に経済的余裕があり,子どもの大学進学を承諾している場合には,大学生である子どもが成人したとしても,その時点で学費・生活費の支払いをストップすべきではないと考えるべきであり,実務上もそのように考えられているように思われます。
また,大学進学に関して親の承諾がない場合であっても,親の職業や経済状況等に照らして学費負担が認められる場合があると考えられます。

④ 進学塾の塾代

塾に通っていることが養育費の算定において考慮されるかどうかについても、ケースバイケースです。
ただし、私立高校の場合よりも優先順位は下がり、私立高校の学費を養育費に加算したうえ、なお経済的な余裕がある場合でなければ、塾の費用が養育費に加算されることはありません。私立学校の学費以上に慎重に判断されることになります。
もっとも、絶対に考慮されないというわけではありません。養育費を支払う側が塾に通うことを承諾していたかどうかといった事情のほか、夫婦(元夫婦)それぞれの収入・学歴・地位、これまでの生活状況、現在の生活状況等を考慮要素として、養育費に加算すべきか判断されます。

 

3 算定表で養育費を算定する場合の適用すべき収入で争いがある場合

① 年によって収入が変動する職業の場合

職業によっては、その年によって収入の変動が多い場合があります。
その場合、直近の年収によって婚姻費用・養育費を決めるとなると、妥当でない結論となるおそれがあります。
したがって、今後も収入の変動が予測されるのであれば、過去数年分(たとえば3年分)の年収及び今年の見込額を平均するという方法をとるべきでしょう。

② 将来、年収が減る見込みである場合

まず、婚姻費用や養育費を算定する際は、原則として、前年度の源泉徴収票・課税証明書、確定申告書等を用います。
将来の支払いの際にも、前年度と同程度の収入があるものと推計するという考え方です。
減収することがほぼ確実で、いくら減収するのか明確に予測することが可能な場合は、減収が考慮されることになります(客観的な証拠が必要です)。
しかし、減収することや、いくら減収するのかの予測が困難であれば、原則どおり、前年度の収入が算定の基礎とされることになります。

③ 将来、年収が増える見込みである場合

減収の場合と考え方は同じです。たとえば、転職で給与が上がるという事案で、転職先が既に確定しており、具体的給与額についても契約書等により示されている場合、増収がほぼ確定的で
あるし、いくら増収するのかも明確に予測できるため、増収が考慮されることになります。
この場合、転職前の支払いと、転職後の支払いとで別々に算定し、転職後については転職後の見込み収入を算定の基礎とします。

④ 収入資料の信用性が欠ける場合

相手方が提出した源泉徴収票や確定申告書といった収入資料の信用性が欠ける場合、現実の収入を認定するため、資料を多角的に収集する必要があります。
自営業者等で節税等の目的で経費の水増し等をしていたケースでは,生活実態や従前の収入から実際の収入を推計した裁判例があります。
また、現実の収入を認定する資料がない場合には、賃金センサスを利用した裁判例があります。
生活実態から収入を推計した裁判例としては、確定申告での課税所得金額がゼロとされていた事案で、事業資金の返済、食費、家賃、個人年金、医療費、嗜好品代等の支出状況から、支出と同額程度の収入があったと認定された例があります(こうした例では、家計簿、請求書、領収書、通帳等の科刑の実情を示す資料から現実の支出状況を認定していきます)。また、同様の事案で、別居前に生活費として渡されていた金額から収入が認定されたケースもあります。
相手方の生活実態が収入資料の収入と乖離していることが明らかであるにもかかわらず、支出状況について客観的資料を集めるのが困難である場合は、賃金センサスを用いて相手方の収入を認定することがあります(ただし、賃金センサスを用いる正当性を根拠付けるためには、収入資料が信用できないことだけでなく、できる限り現実の収入の存在を示す事実を証明していく必要があります)。

⑤ 収入資料が存在しない場合

収入があることが明らかであるものの、確定申告をしていない、給与が手渡しであるなどの事情により、収入資料が存在しない場合があります。
このような場合、同居時期の家計状況をできる限り証明したうえ(権利者の陳述のみならず、家計簿、領収書等から証明していきます)、義務者の年齢、職種、営業規模、就業形態から賃金センサスを用います。賃金センサスと現実の収入に乖離がある場合は、できる限り現実の収入に近い統計数値が採用されるように権利者からも説得的に主張する必要があります。

⑥ 義務者が退職して無職になってしまった場合

結論からいいますと、現在無収入になってしまっているとしても、潜在的稼働能力があれば、婚姻費用や養育費の支払いを免れることはできません。この場合、潜在的稼働能力に応じた収入を認定して、婚姻費用や養育費を算定することになります。潜在的稼働能力の有無や程度については、学歴や資格の有無、過去の就労歴や経験、年齢、健康状態、就職活動の状況、監護している子の年齢や健康状態、再就職が困難な事情の有無等の具体的事情に照らして、判断されます。
また、退職の経緯も重要な判断要素のひとつとなります。たとえば、婚姻費用や養育費の支払いを免れようとして退職した等の事情がある場合、潜在的稼働能力があるとみなされる可能性が高くなります。支払いを免れるために退職したかどうかは、退職の時期、退職理由、退職前後の義務者の言動、新たな就職先を探す努力の程度等から判断されます。
潜在的稼働能力があると判断された場合、その潜在的稼働能力の程度に応じた賃金センサスを用いるなどして、収入が認定されます。また、退職前と稼働能力が変わらないと判断されれば、退職前の収入がそのまま認定されることもあります(退職前と同様の業務につけない事情がなく、ただ強制執行を免れるためだけに退職した場合等)。

 

離婚紛争中・離婚後の面会交流

離婚した夫婦に未成年の子どもがいる場合には、子どもを引き取らなかった親(親権者いならなかった親)は子どもと一緒に暮らすことが出来なくなります。この状態を放っておくと、親権者とならなかった方の親は、そのまま一生子どもと会えなくなるおそれもあります。このように、離婚によって親と子どもが引き離されることは、子どもにとっても大変な不利益です。
そこで、離婚する場合には、親権者(監護者)とならなかった親と子どもの間に面会交流権が認められます。面会交流権とは、子どもと別居状態にある親が、子どもと会う権利のことです。
面会交流権は、親だけではなく子どもの健全な成長のために必要なものであり、子どものための権利でもあります。

離婚後の面会交流を定める場合、離婚前に夫婦できちんと話し合いをして決めておくことが大切です。
離婚後にあらためて話し合おうとしても、お互い連絡が取りづらくなって話し合いが出来ないことも多いですし、話し合いを継続している間、親と子どもが会えない期間が長引いて、子どもにも悪影響を与えてしまいます。
よって、面会交流について定める場合には、離婚前に夫婦が話し合って決めておきましょう。
面会交流方法については、特にこうしなければならないという決まりはありません。頻度も、月に1回程度が標準的と言われますが、子どもの年齢や状態、親子関係などに鑑みて、個別のケースで自由に設定することが可能です。
毎週会う内容でもかまいませんし、3か月に1回などでもかまいません。また、会う時間も2時間でもかまいませんし、半日でもかまいません。1年に数回は宿泊を伴う面会を入れても良いです。何が子どものために一番良いのかを考えながら、具体的な面会交流方法を決定しましょう。
また、面会交流の方法を決める際には、それが子どものためのものであることを忘れてはなりません。たとえば、子どもの予定や都合を無視して、親の都合で無理矢理子どもを連れ出しては、何のための面会交流かわかりません。
面会交流を行う際には、子どもの都合や気持ちを優先して、子どもの健全な成長のために役立つような面会交流方法を心がけましょう。

親同士で話し合いをしても、面会交流方法を決められない場合があります。子どもの監護者となっている方の親が、面会交流を一方的に拒んでいることもあるでしょう。このような場合には、家庭裁判所で面会交流調停を行うことによって、面会交流方法を話し合い、決定することが出来ます。面会交流調停では、裁判所の調停委員が間に入って話し合いを進めてくれるので、当事者同士ではもめてしまうケースでも、話し合いをすすめることが出来ます。子どもが面会を嫌がっているなど、子ども自身の状態が問題になっている場合などには、裁判所の調査官が調査をして、子どもの状態や気持ちなどを確かめてくれることもあります。
もし調停でも話し合いがつかず、面会交流方法を決められない場合には、担当の審判官(裁判官)が審判を出して、個別のケースに応じた面会交流方法を決定してくれます。

最後にですが,子と同居していない親は面会交流を求めていくと思われますが,子と同居している親も面会交流にはついては柔軟に検討すべきです。前回のブログでも触れましたが,面会交流の許容の有無は親権の判断の参考要素になります。子の利益を考えて子のためにどうするべきかという視点から物事を判断していきましょう。

離婚紛争時の子の連れ去りについて

離婚の際に夫婦の間に子がいるとき,夫婦の一方が子を連れ去る場合があります。親権判断の際に子を実際にどの程度継続して監護・養育しているのか(現状・継続性の尊重)という点が重視されることもあり,子を連れ去り自身の手に置こうと考えるケースがあります。そこで,今回は子を連れ去った場合の影響と子を連れ去られた場合の対処方法について述べたいと思います。

1 配偶者が子を連れて別居をしたケース

結論として,不利にならないのが通常です。特に,それまで主に子供の養育をしていた親(日本の現状では多く母)が子供を連れて出た場合には,不利になりにくいです。別居が避けられない状態になっている夫婦では双方にストレスがかかっていて,子供の心身の健やかな成長にも悪影響を及ぼしており,夫婦が別居することが子供にとっても良いことが多いです。どちらの親と住むかは別にして,別居は,「子の利益」にもつながることといえます。子連れ別居を強行したとしても,やむを得ないこと,子の利益につながることをしたという面があります。また,主に養育をしていた親がその後も一緒に住むことは,そうでない親と一緒に住むよりも「子の利益」になることが多いです。したがって,主に養育をしていた親が子供を連れて別居したときには,さらに,不利になりにくいと言えます。加えて,一方の親にDVやモラハラがあったり,子供への暴力(児童虐待)があったりするときには,そのような親から早く離れたことが,子供の利益を実現した行為ということになりますので,子の連れ去りはさらに問題視されないことになるかと思います。

もっとも,連れて出たときの状況やそれまでの経緯によっては,不利に働く可能性があります。
まず,子供の利益を考えないような行動は不利に評価される可能性があります。 子供がはっきりと自分の意思を示せる年齢にもかかわらず,その意思を確かめずに突然実家に連れて帰る 場合,子供が絶対にこの場所を離れたくないと言っているのに連れて出る 場合,普段全く子供の面倒をみていなかったにも関わらず急に連れて出る 場合です。また,話合いができたのに配偶者と全く話合いをせずに急に子供を連れて家を出たという場合にも,不利に働く可能性があります。以前はあまり問題とされていませんでしたが,最近は,同居して生活しているという「既成事実」獲得の目的で子連れ別居しているのではないか,そのような目的による子連れ別居を放置して良いのかという問題が生じています。そして,日本がハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)を批准したことから,特にその問題意識は高まっていると思われます。ハーグ条約は,子供の連れ去りが,子供にとってそれまでの生活基盤が突然急変するほか,一方の親や親族・友人との交流が断絶され,新しい環境へも適応しなくてはならなくなる等,子供に有害な影響を与える可能性があるとの考え方に立っています。そのような子供への悪影響から子供を守るため,原則として元の環境へ子供を戻すべきものとしています。そのため,話合いができるのに話合いを全くせずに,突然子供をを連れて家を出る場合には,親権者としての適格性が問題になり,不利になることもあり得ます。

2 配偶者が子を連れだして別居をしたが,その状態が長期間継続したケース

子供は,同居している親と精神的結びつきが強くなり,別居している親とは精神的結びつきが弱くなります。
また,環境についても,家出のときには,子供の生活環境が急変し,友人との交流が断絶するなどの悪影響があっても,時間が経つと,子供は新たな生活環境に馴染み,新たな友人もできていって,悪影響を取り除く必要が薄れていきます。逆に,再度,生活環境を変えることによるデメリットを考えざるをえなくなります。
そのため,別居期間が長引くほど,「子供は今の親との生活(別居後の生活)に馴染んでいる。現在,一緒に住んでいる親は子供の面倒をしっかり看ていて,特別な問題は無い。何度も環境を変えるのは子供の利益にならない」という判断から,同居親が,親権者として有利である,という判断になりやすいのです。
子供と離れて暮らしている親に,別居前に主に養育していて監護実績があり,経済力もあるとしても,不利になっていきます。もともと親権者として有利な立場にあったのに,不利になっていくのを防ぐには,「子の引渡しの審判」を素早く行うことがとても重要になります。

3 別居後に一方の親と暮らしている子を連れ去るケース

このようなケースでは,通常,連れ去りは,全く必要性のない行為です。また,別居した場合,子供は同居している親との生活環境に馴染んでおり,他方の親とは完全に離れた生活を送っています。連れ去りにより,それを突然変えることは,子供の不利益も大きいです。そのため,このような連れ去りは,相手方の同意が無い限り,原則として違法とされ,親権者としては不利に働きます。

もっとも,このような連れ去りのケースでも,連れ去った親と子の同居期間が長くなればなる程,連れ去った側に親権が認められやすくなる可能性があります。不利になっていくのを防ぐには,「子の引渡しの審判」を素早くすることがとても重要になります。裁判所がこのようなケースでの連れ去り行為を認めてしまうと,子供の奪い合いなどが繰り返され,自力救済を認めることになりかねません。そうなれば,子供は,親が自分を奪い合う様子を見せられたり,短期間に何度も環境を変えられるたりするため,心への悪影響があります。そのため,子の引渡が認められる可能性が高いと思われます。

4 親権の判断で不利にならないようにするための対応

➀ 子を連れ去った側

面会交流の不当な拒絶は,親権を取るのに不利に評価されます。相手方(夫,妻)から求められれば,できる限り,面会交流をさせることが必要です。面会交流については別の機会で述べます。

② 子を連れ去られた側

親権者として不利にならないよう,一刻も早く,子の引渡しの審判をする必要があるでしょう。
その別居に至った状況,連れ去られた際の状況によっては,これらの申立が認められない場合もあり得ますが,それでも,早期に子供との交流ができるように,子の引渡の手続きの中で裁判所に求めていくのがよいでしょう。
子の引渡の申立をした場合,すぐに子供を戻してもらえるようにならなくとも,早めに面会交流だけでもさせてほしいなどと裁判所で伝えていくこともできます。
場合によっては,別途,面会交流調停の申立をすることも検討すべきです。
子供との交流,つながりが全く無い状況が続けば続くほど,親権者として不利になっていきます。

離婚・親権について不明な点があれば一度仙台駅前法律事務所まで問い合わせをしてみてください。

離婚後の親権について

離婚を検討する際に子どもがいる場合は親権者をどちらにするかを検討する必要があります。配偶者の一方が子供にあまり興味がなければ特に争いになりませんが,そのような事例は少なく,基本的に親権争いはかなりの長期戦になり,短期解決は正直あまり見込めません。では,長期の争いの末に親権はどちら側に決まるのでしょうか。

まず,最初にお伝えしたいのは,必ず親権を取れる方法というものは無いということです。
父母のうち,子供の親権者となれるのは1人ですから,いくら努力しても成果につながらないことがあります。
また,親子の関係は,離婚調停前の長い年月により築かれており,短期間に激変させることができません。

1 親権の判断基準

裁判官(家事調停官)・調停委員・調査官は,難しい用語で「子の福祉」を重視すると言っていますが,要するに「子供の幸せ」の観点から親権を考えようとします。
つまり,どちらの親と生活する方が子供にとって幸せになりそうかというのが裁判所が親権者を父母のどちらにするかの判断基準となります。具体的には,以下の事情を考慮します。

① 現在子供と同居しているか,どのように養育に関わっているのか。別居しているのであれば,その経緯,理由。今後同居は可能なのか。

② 10歳前後からはどちらと住みたいかという子供の意思の重視

③ 勤務状況,子供が病気の場合の対応が可能か等

④ これまで子供が住んできた環境を維持できるのか。実家に連れて帰る場合は,なぜその方が良いのか。

⑤ 実家で同居して自分の親が助けてくれる,近くに親族が住んでいて協力してくれること

⑥ 自分の方が財産・収入が多い,自分と生活する方が経済的に豊かな生活ができる,ということ。養育費,児童手当等の福祉的給付もふまえて考える形になります。もっとも,この点はそこまで重視されないです。

⑦ 同居している場合は,子供が相手と会うことを認めているか,会わせているか。別居している場合は,もし,自分が親権者となったら会わせるつもりがあるのか 。

⑧ これまでの子育ての実績(時間・内容) ,子供の塾の送迎,病気の対応,学校行事への参加,洗濯,食事など,具体的にどのように関わってきたのか。

以上の点を裁判所に具体的にPRしていき,自身が親権者になった方が子が幸せであると主張していくことになります。

2 家庭裁判所の調査官調査の対応

離婚調停中に,親権者としてどちらがふさわしいかについて,家庭裁判所調査官による調査が行われることがあります。
調査官も人間ですから,間違うことはあります。しかし,多くの場合,調査官の出した結論は,正しい結論です。そして,裁判官や調停委員には正しい結論であると受けとめられます。
調査官調査をする場合には,調査結果が出たときに,自分の希望と異なる結果であっても,受け入れようという覚悟を持って,調査官調査に臨む必要があります。

① 社会常識ある態度で対応する

礼儀正しく調査官調査に協力する,調査官との約束の時間に遅刻しない,調査官が家庭訪問に来るときには掃除・整理整頓をしておくといったことは,社会人として当然のことです。神経質になる必要はありませんが,あまりにも社会のルールが守れない,不潔であるということですと,子供を正しくしつけられないと見られても仕方がありません。

② 有利な事実をしっかりと説明する

有利な事実はしっかりと説明し,否定できない不利な事実はフォローできるようにしておきましょう。
子供の幸せのために,自分が,これまで何を考え何をしてきたか,現在何を考え何をしているのか,将来どうするのか。
過去に子供に暴力をふるったなど,子供を不幸にさせた行為・態度を否定できないのであれば,その原因と今後の対策をどのように考えているのか。
相手に,子供を不幸にさせるような行為・態度・事情として,どのようなことがあったか。
子供と別居していて,相手が適切な養育をしていないと思われる場合には,調査官に特に調べてきてほしい事項を具体的に話しましょう。

③ 普通のことも具体的に説明できるようにする

子供とどのように関わってきたのかと尋ねられると,説明が難しく,「普通の父親のように」「普通の母親のように」となりがちです。
普通のことを普通に行うことも適切な養育です。
普通だと思っても,その普通にやってきたことを具体的に説明できるようにしておく必要があります。

④ あなた,子供,同居家族のタイムテーブル

通常,裁判所からの指示により,曜日別の,自分,子供,同居家族の生活のタイムテーブルを書いて提出することになります。
特に,子供と同居している人は,タイムテーブルで,適切な養育ができているかがチェックされていると思って下さい。
長時間自分で子供の面倒をみるのが良いということではありません。保育園,自分の親などの活用があるのは通常のことです。子供との関わりが薄すぎたり,肝心のところができていなかったり,子供の生活の乱れが放置されているようであれば,問題ありということになります。
調査官調査が始まってからでは遅いので,事前に改善しておいて,問題視されないようなタイムテーブルを提出できるようにしてましょう。

3 一方配偶者が不倫をしていた場合の親権判断への影響

通常は配偶者の有責性,すなわち,不倫をしていた事自体で親権判断に影響が生じることはありません。なぜなら,親権判断基準はどちらを親権者にする方が子にとって幸せかという点でするものであり,不倫をしていたこと自体が子の福祉の判断に影響を与えることはないからです。もっとも,上記で親権判断基準で述べましたが,今までの子の監護の実績・現在の監護状況が親権の判断要素となるところ,不倫相手に熱を入れすぎるばかり育児を放棄したといえるような事情があればこの事情は親権判断にとって不利な方向に働きます。

 

離婚・親権について不明な点があれば一度仙台駅前法律事務所まで問い合わせをしてみてください。

離婚協議書の作成のポイント

夫婦が調停手続や裁判を介さずに自分たちで話し合って離婚する際、「離婚協議書」を作成することが多いです。 離婚協議書を作成しておくと、双方が合意した離婚条件が明確になり、かつ、その内容が書面に残りますので、離婚後に「内容が違う」「言った、言わない」などのトラブル発生を回避することができます。 そこで、今回は、離婚協議書作成のポイントについて解説します。

まずは、合意した離婚条件を漏れなく記載することが重要です。特定の離婚条件について合意したにもかかわらず、それを書面に残しておかなければ、結局は後で「内容が違う」「言った、言わない」などのトラブルを避けることができないからです。 離婚の際に合意すべき条件としては、未成年の子どもがいる場合の親権者、子どもの養育費、別居親と子どもとの面会交流権、どちらかの配偶者に有責性があった場合の慰謝料、財産分与、さらには年金分割もあります。 これらの事項を離婚協議書に漏れなく記載することによって、後々のトラブルを避けることが可能になります。

以下では、具体的な項目別のポイントについて解説します。

1 親権者

離婚する夫婦に未成年の子どもがいる場合、子どもの親権者を決めないと離婚をすることができません(民法819条1項)。
親権者となった者は、通常、子どもと一緒に住んで子どもを監護養育し、子どもの財産を管理することになります。

2 養育費

未成年の子どもがいる場合、養育費の支払いとその金額も決める必要があります。
養育費は、月々の分割払いにすることが普通であり、一括払いは原則として認められません。
月々の支払金額については、裁判所で採用されている基準もありますが、当事者が自由に定めることも可能です。

3 面会交流

未成年の子どもと親権者にならなかった方の親との間の面会交流についても定める必要があります。 面会交流の条件・方法について定めておかないと、離婚後、親権者とならなかった方の親と子どもが全く会えなくなってしまうという事態も発生しかねません。
片方の親に会えなくなってしまうのは、子どもにとっても不利益になりますので、きちんと話し合って決めておきましょう。

4 慰謝料

離婚する際、慰謝料が問題になることもあります。 慰謝料は常に発生するわけではありません。あくまで、離婚原因が一方の不法行為によるものである場合に発生します。 その典型例が、夫婦の一方が不貞していた場合です。 このような場合、離婚協議書に慰謝料の金額と支払方法を記載します。

5 財産分与

離婚協議書を作成する際には、財産分与についても記載する必要があります。 婚姻後にお互いが協力して築いた財産は、夫婦の共有財産となり、財産分与の対象となります。 夫婦はお互いに財産分与を求める権利がありますので、財産分与の対象財産をどのように分けるかを決めておくべきです。財産分与の分け方は、それぞれ2分の1ずつ分けるのが一般的です。もっとも、これと異なる割合を定めることも可能です。 財産分与についても、金額や清算方法などを具体的に記載することが離婚協議書作成のポイントになります。

6 金銭支払方法の明記

離婚協議書を作成する際には、上記の通り、金銭の支払いが問題になることが多いです。 例えば、養育費、慰謝料、財産分与などがそれに当たります。 金銭支払いが問題となる場合には、必ず具体的な支払い方法を決めておきましょう。 支払金額と支払方法(毎月の分割払いになるのか一括払いになるのか、またその期限等)、入金方法(銀行振込なのか、手数料は誰が負担するのか等)もきちんと合意して離婚協議書に記載します。 銀行振込を利用するのであれば、振込先口座も記載しておきましょう。