コラム

離婚後の財産分与

結婚するときは、今後のお互いの生活に関して、細かな決め事をしていないことが多いでしょう。
しかし、離婚をする際には、確認しなければならないこと、決めなければならないことがたくさんあります。
例えば、子どもの親権はどちらが持つのか、持家はどちらが住むのか、家を出ていく一方にはどれくらい財産を分けてもらえるのか、相手方配偶者の扶養に入っていた場合、その期間の年金の扱いはどうなるのか等々です。
そのうち、結婚後に購入した家や車など夫婦が共同で築き上げた財産を清算することを「財産分与」といいます。
「家なんて、もういい。とにかく早く別れたい!」と言って財産をどのように分けるか決めずに離婚を急いでしまった場合、本来もらえるはずの財産をもらわないまま別れてしまっている場合もあります。相手方配偶者に財産分与を請求する権利は法律上認められています(民法768条1項)。
したがって、離婚をする際には、財産分与をどのように分けるかについて、相手方配偶者としっかり合意をして、もらえるはずの財産がもらえなかったということがないようにしましょう。

1 財産分与の割合

財産分与の対象となる財産の範囲については後で説明しますが、一体どの程度の割合で分与されるのでしょうか。
これを清算割合といいますが、2分の1ずつの割合で分与するのが一般的です。
専業主婦の方などは、夫が働いて稼いだお金だから…と財産分与をためらう人もいますが、夫が外に出て仕事をし、収入を得られるのは、妻が家庭内のことを引き受け頑張ったからと考えられています。
自分が直接収入を得ていないからといって、財産分与をためらうことはありません。

2 財産分与の対象となるもの

財産分与の対象となるものは、名義が誰にあるかに関わらず、婚姻後に夫婦の協力によって取得した財産です。 一方配偶者の単独名義財産であっても、それが夫婦の協力によって取得したといえれば、財産分与の対象となります。
財産分与の対象となる財産を確定する基準時は、原則として「別居時」といわれています。
もっとも、不動産、株式など財産は、夫婦の協力とは関係なく価格が変動します。そこで、このような財産については、「裁判時」を価格評価の基準時とするのが一般的です。
財産分与の対象となる例としては、婚姻後に購入した自宅不動産、家具・家財、夫婦どちらかの名義になっている預貯金・保険解約返戻金、車などが考えられます。
①「退職金」は財産分与の対象となるのか
まず、離婚時に既に受け取っている退職金については、在職期間に対して同居期間のみを寄与期間として算定します。
例えば、相手方配偶者が20年勤務して退職した場合、その20年間中夫婦の同居期間が15年であれば、この15年を基準に財産分与の額を計算することになります。
次に、離婚後に受け取る予定の退職金については、退職金が支給される高い可能性があれば、財産分与の対象となると考えられています(東京地方裁判所判決平成11年9月3日)。
ただ、定年退職まで相当な年数を要するとき、退職金が支給される高い可能性があるとはいえないという場合もあります。
将来の退職金が財産分与の対象として認められたケースでは、定年まで残り数年であり、退職金の支給額が分かっているという場合が多いといえます。
② 婚姻継続中に相手方配偶者が交通事故の示談金として受け取った損害保険金は、財産分与の対象となるのか
まず、この損害保険金のうち、傷害慰謝料・後遺障害慰謝料に対応する部分は財産分与の対象とはなりません。
これはあくまで、相手方配偶者が交通事故によって受傷したこと等による精神的苦痛を慰謝するためのものであるから、夫婦の協力によって取得した財産ではないからです。
一方、この損害保険金のうち逸失利益(その事故がなければ相手方配偶者が労働によって得られた利益等)に対応する部分は、財産分与の対象となります。

3 財産分与の対象とならないもの

婚姻前から持っていた財産や、別居後に取得した財産等、夫婦の協力とは無関係に取得した財産は、財産分与の対象にはなりません。このような財産を「特有財産」といいます。
例えば、婚姻前から貯めていた預貯金や、相続によって取得した財産などは、財産分与の対象になりません。
ただし、このような財産であっても、婚姻後の夫婦の協力によって、その財産の価値を維持し、又はその価値が上がったと判断されるようなものについては、財産分与の対象とされる場合もあります。

4 債務等のマイナスの財産

夫婦の一方が婚姻中に負った債務について、それが日常の家庭生活を営む上で通常必要とされる事務(日常家事といいます)に関するものでない限り、他方配偶者は責任を負わないのが原則です(夫婦別産制)。
したがって、原則として、一方配偶者は、他方配偶者がその名義で借り入れたお金について責任を負うことはありません。
もっとも、夫婦共同生活の中で生じた債務については、財産分与の際に考慮するのが一般的です。
考慮される債務としては、婚姻生活を維持するために借り入れた債務(子の教育ローン、生活費の不足を補うための借入れ等)、居住用不動産の住宅ローン等が挙げられます。
一方で、ギャンブルや浪費などのために負担した債務、相続した債務等は、そもそも夫婦共同生活のためにできた債務ではありませんので、財産分与の際に考慮されません。
① 財産分与の際、どのように考慮されるのか。
夫名義のプラスの財産とマイナスの財産(債務)が存在する場合、このプラスの財産からマイナスの財産を控除して残った残額を財産分与の対象とするというのが一般的な考え方です。
これは夫がこの債務を負担することを前提としています。
以上を踏まえて、財産分与の計算方法を示すとすると次のようになります。
例えば、清算割合を2分の1として妻が取得する財産の額を計算する場合、
(夫の資産・負債の合計+妻の資産・負債の合計)÷2-妻の資産・負債の合計となります。
もっとも、この計算式は,自宅不動産が存在する場合、離婚の際に自宅不動産を売却する場合ことを前提としています。
財産分与における自宅不動産の扱いは多少複雑ですので、ここでは詳細な説明は控えますが、例えば,夫名義の自宅不動産に夫名義の住宅ローンが存在し、かつ、離婚後も夫が住み続けるような場合には、住宅ローンの残額と自宅不動産以外の資産・負債とを分けて処理するのが実務の運用となっています。
つまり、財産分与の対象となる自宅不動産の価値は、その不動産に関する現在価値から住宅ローンの残額を控除して算出します。したがって、例えば、自宅不動産の現在価値よりも住宅ローンの残額の方が多ければ、財産分与の対象となる不動産の価値はゼロになり、その不動産に関して財産分与をする対象は存在しないということになります。
② オーバーローン(債務超過)になっている場合、マイナスの財産を分与することになるのか。
これは難しい問題ですが、現在の裁判実務では、マイナスの財産を分与することには消極的であるといわれています。
ただ、実際に財産分与の話し合いをする際には、離婚後に禍根を残さないよう、互いにある程度歩み寄りをするケースもあります。

離婚後の養育費の支払が滞納した場合の対処

離婚の際に未成年の子どもがいる場合、離婚後の養育費の分担について一定の合意をすることが多いと思います。しかし、離婚後しばらくの間は養育費の支払いがあっても、時が経つと養育費の支払が滞ることがあります。支払いが数日遅れたくらいなら大したことはないでしょうが、数か月以上滞納して、一切支払う気配が見えなくなってしまうこともあります。
実際に養育費の支払いが途中から止まってしまうことも多く、離婚の際に一定の合意をしても、結局、途中から支払いを受けられなくなっている人がたくさんいます。督促をしても無視をされることは多々あります。この場合には相手の給与や預金の差押えをするいわゆる「強制執行」という手続を検討することになります。強制執行をするためには債務名義が必要になります。債務名義の例としては,確定判決,裁判上の和解調書,調停調書,審判,公正証書等があります。

1 公正証書の作成

先ほど説明した債務名義の中で最も簡易な方法で取得できるものが「公正証書」です。確定判決、調停調書、確定審判等は、裁判・調停・審判等の手続を経なければ取得することができません。しかし、「公正証書」は、当事者間で合意した内容に基づいて公証人が作成しますので、合意さえすればスピーディーに取得することができます。
公正証書があれば、養育費の滞納が生じたとしても、裁判・調停・審判等の裁判所を介した手続を経ることなく、相手方の財産について強制執行を申立てることができます。
なお、念のための注意ですが、公正証書は当事者間だけで交した契約書と同一ではありません。あくまで「公証人役場」にいる「公証人」が作成するものです。「契約書があるので強制執行できる」ということにはなりません。公正証書作成の注意点としては,養育費の支払いに関する公正証書(執行証書)を作る際に、「Aは、・・・○○円を支払う。」という条項を設けることになりますが(これを「給付条項」といいます。)、この給付条項にキチンと「養育費として・・・支払う。」と記載しなければならないことです。理由は後で述べます。

2 養育費調停

養育費の支払いについて当事者間で合意していたとしても、公正証書(執行証書)を作成していない場合、その合意に基づいて、いきなり相手方の財産を差し押さえることはできません。
このような場合、養育費支払いに関する合意(養育費支払契約)に基づいて、相手方に金銭の支払いを求める訴訟を提起することも考えられます。しかし、訴訟は費用と時間がかかりますので、いきなり訴訟を提起するというのは、一般的には得策ではありません。
そこで、まずは、訴訟よりもソフトな手続である「調停」を申し立てることが考えられます。具体的には、家庭裁判所に対して養育費調停を申し立て、相手方(支払義務者)との間で養育費の支払義務を確定させるのです。養育費調停は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所に対して申し立てを行います。
養育費調停の手続では、裁判所の調停委員が当事者の間に入り、養育費の金額や支払方法等について話し合いをすすめていきます。この調停手続で、当事者が合意に至れば調停が成立し、その合意内容が「調停調書」に残されます。そして、この調停調書が「債務名義」になることは、すでに説明したとおりです。

3 調停が成立しない場合

調停手続において話し合いがつかない場合は、調停が不成立となります。また、養育費調停を申し立てても、相手方(支払義務者)が裁判所に出頭せず、話し合いすらできない場合も、調停は不成立になります。調停不成立の場合、そこで終わりではなく、家庭裁判所の審判手続に移行します(家事事件手続法272条4項)。また、場合によっては、調停不成立の段階で、裁判所の職権により「調停に代わる審判」を下すこともあります(同法272条1項ただし書)。審判では、裁判所が妥当な養育費の金額を決定してくれるので、一定の解決をみることができます。もっとも、審判に不服がある者は、審判の告知を受けた日から2週間を経過するまでの間、即時抗告をすることができます(家事事件手続法86条)。この2週間の間に即時抗告がない場合、その審判は確定します(同法74条2項ただし書き)。そして、確定した審判が「債務名義」になることは、すでに説明しました。

4 強制執行手続の流れ

「債務名義」があれば、相手方の財産について強制執行をすることができます。強制執行の対象は、相手方名義の財産になります。
強制執行の種別は、不動産執行、債権執行等いくつかあるのですが、養育費の場面では債権執行が多いと思います。債権執行の場合、例えば、預貯金、生命保険、給料債権等があります。この点、不動産執行も考えられますが、申立ての際、不動産の価格に応じて予納金を納付する必要がありますので注意が必要です。
強制執行の申立先(管轄)は、債権執行の場合は相手方(支払義務者)の住所地を管轄する地方裁判所(支部を含む)になります。不動産執行の場合は、目的不動産の所在地を管轄する地方裁判所(支部を含む)になります。

5 給与差押えについて

相手方の勤務先を把握していれば給与差押えが可能です。

① 毎月差押えの申立ては不要

法律では、養育費債権といった扶養義務等の定期金債権(一定の期間、定期的に支払いを受けることを目的とする債権)について、その一部に不履行(支払が滞ること)があれば、将来弁済期が到来する分についても債権執行(債権に対する強制執行)を開始することができるという「特例」を設けています(民事執行法151条の2)。給与差押えの場合、この特例を使えば、毎月毎月、強制執行の申立てをする必要はなくなります。つまり、一度申立てを行えば、その後は毎月強制的に養育費を回収することができます。もっとも、将来の養育費債権に基づく強制執行は、その弁済期が到来した「後」に「弁済期が到来する給料債権」のみを差し押さえることができます。例えば、「毎月1日限り10万円を支払う」という場合で、相手方の給料が25日に支払われるというとき、その月の養育費については、同月25日以降に支払われる給料を差し押さえることになります。ここでの注意点は,養育費の支払いに関する公正証書(執行証書)を作る際に、「Aは、・・・○○円を支払う。」という条項を設けることになりますが(これを「給付条項」といいます。)、この給付条項にキチンと「養育費として・・・支払う。」と記載しなければならないことです。この特例を用いることができる債権は「養育費」等に限定されていますので、金銭支払義務の法的性質が養育費支払義務に基づくものであることを示さなければならないのです。例えば、「解決金として・・・支払う。」などとした場合、その金銭支払義務の法的性質が養育費支払義務に基づくものであることは分からないので、この特例を使うことはできないということになります。

② 給与差押えの可能な範囲

法律の条文では、「2分の1に相当する部分は、差し押さえてはならない。」(民事執行法152条1項・3項)と規定しています。差押えが禁止される額は、いわゆる「手取額」(源泉徴収される給与所得税・住民税・社会保険料を差し引いた分)を基準に算定されます。例えば、手取りの月給が20万円の場合、10万円までを差し押さえることができます。
もっとも、給料の2分の1が「33万円」を超える場合、33万円以上の部分も差し押さえることが可能です(手取り給与額-33万円につき差押可能)。

離婚後の養育費

1 養育費について

親は子どもに対して扶養義務を負っています(民法877条1項)。この扶養義務の程度については,「自分の生活を保持するのと同程度の生活を被扶養者にも保持させる義務」(生活保持義務)があるといわれています。そして,親は,未成年の子に対する扶養義務として,子どもが生活するために必要な費用である「養育費」を負担する義務があります。逆を言えば,原則として親は,成人に達した子供に対して,監護費用分担義務としての養育費の支払いをする必要はありません。

養育費は,上記の通り,「生活保持義務」として履行されるものですから,その支払われる金額は,親の収入によって変わると考えられています。養育費の具体的内容としては,食費,衣類費用,学費等の様々な費用が含まれていますが,「この費用は含まれる」「この費用は含まれない」といった形で明確に区分けすることはできません。家庭ごとに,教育の考え方やそれに伴う経済事情も異なりますから,養育費の内容もそれに応じて変わってくるものと思います。養育費の算定にあたっては,裁判所から一定の算定表が公表されています。http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf

 

2 算定表や原則通りに養育費は決定してしまうのか

調停等では,上記の算定表を基準に考えることになりますが,全ての事件において,算定表に100%縛られて養育費を算定しているわけではありません。
以下では,養育費の具体的内容に関して,紛争になった場合にしばしば問題となり得る事項を説明していきます。

①私立学校の学費

子どもの養育費の算定に当たっては,公立中学校・公立高校の学費は当然考慮されますが,私立中学校・私立高校の学費まで考慮されるのかという問題があります。
この点については,分担義務者(肩親)が私立学校への進学を承諾していたり,分担義務者の経済状況に照らして,私立学校の学費を一定額負担させるべきという場合があります(算定表から算出される養育費に私立学校における学費等を考慮して修正した事例として,大阪高裁決定平成26年8月27日)。

②大学の学費

大学の学費についても,私立学校の学費で説明したのと同じように考えられます。

③成人に達した子どもの生活費・学費

親は成人に達した大学生の子どもに対して学費・生活費を支払わなければならないかという問題があります。
この点については,昨今の大学進学率の高さからすれば,親に経済的余裕があり,子どもの大学進学を承諾している場合には,大学生である子どもが成人したとしても,その時点で学費・生活費の支払いをストップすべきではないと考えるべきであり,実務上もそのように考えられているように思われます。
また,大学進学に関して親の承諾がない場合であっても,親の職業や経済状況等に照らして学費負担が認められる場合があると考えられます。

④ 進学塾の塾代

塾に通っていることが養育費の算定において考慮されるかどうかについても、ケースバイケースです。
ただし、私立高校の場合よりも優先順位は下がり、私立高校の学費を養育費に加算したうえ、なお経済的な余裕がある場合でなければ、塾の費用が養育費に加算されることはありません。私立学校の学費以上に慎重に判断されることになります。
もっとも、絶対に考慮されないというわけではありません。養育費を支払う側が塾に通うことを承諾していたかどうかといった事情のほか、夫婦(元夫婦)それぞれの収入・学歴・地位、これまでの生活状況、現在の生活状況等を考慮要素として、養育費に加算すべきか判断されます。

 

3 算定表で養育費を算定する場合の適用すべき収入で争いがある場合

① 年によって収入が変動する職業の場合

職業によっては、その年によって収入の変動が多い場合があります。
その場合、直近の年収によって婚姻費用・養育費を決めるとなると、妥当でない結論となるおそれがあります。
したがって、今後も収入の変動が予測されるのであれば、過去数年分(たとえば3年分)の年収及び今年の見込額を平均するという方法をとるべきでしょう。

② 将来、年収が減る見込みである場合

まず、婚姻費用や養育費を算定する際は、原則として、前年度の源泉徴収票・課税証明書、確定申告書等を用います。
将来の支払いの際にも、前年度と同程度の収入があるものと推計するという考え方です。
減収することがほぼ確実で、いくら減収するのか明確に予測することが可能な場合は、減収が考慮されることになります(客観的な証拠が必要です)。
しかし、減収することや、いくら減収するのかの予測が困難であれば、原則どおり、前年度の収入が算定の基礎とされることになります。

③ 将来、年収が増える見込みである場合

減収の場合と考え方は同じです。たとえば、転職で給与が上がるという事案で、転職先が既に確定しており、具体的給与額についても契約書等により示されている場合、増収がほぼ確定的で
あるし、いくら増収するのかも明確に予測できるため、増収が考慮されることになります。
この場合、転職前の支払いと、転職後の支払いとで別々に算定し、転職後については転職後の見込み収入を算定の基礎とします。

④ 収入資料の信用性が欠ける場合

相手方が提出した源泉徴収票や確定申告書といった収入資料の信用性が欠ける場合、現実の収入を認定するため、資料を多角的に収集する必要があります。
自営業者等で節税等の目的で経費の水増し等をしていたケースでは,生活実態や従前の収入から実際の収入を推計した裁判例があります。
また、現実の収入を認定する資料がない場合には、賃金センサスを利用した裁判例があります。
生活実態から収入を推計した裁判例としては、確定申告での課税所得金額がゼロとされていた事案で、事業資金の返済、食費、家賃、個人年金、医療費、嗜好品代等の支出状況から、支出と同額程度の収入があったと認定された例があります(こうした例では、家計簿、請求書、領収書、通帳等の科刑の実情を示す資料から現実の支出状況を認定していきます)。また、同様の事案で、別居前に生活費として渡されていた金額から収入が認定されたケースもあります。
相手方の生活実態が収入資料の収入と乖離していることが明らかであるにもかかわらず、支出状況について客観的資料を集めるのが困難である場合は、賃金センサスを用いて相手方の収入を認定することがあります(ただし、賃金センサスを用いる正当性を根拠付けるためには、収入資料が信用できないことだけでなく、できる限り現実の収入の存在を示す事実を証明していく必要があります)。

⑤ 収入資料が存在しない場合

収入があることが明らかであるものの、確定申告をしていない、給与が手渡しであるなどの事情により、収入資料が存在しない場合があります。
このような場合、同居時期の家計状況をできる限り証明したうえ(権利者の陳述のみならず、家計簿、領収書等から証明していきます)、義務者の年齢、職種、営業規模、就業形態から賃金センサスを用います。賃金センサスと現実の収入に乖離がある場合は、できる限り現実の収入に近い統計数値が採用されるように権利者からも説得的に主張する必要があります。

⑥ 義務者が退職して無職になってしまった場合

結論からいいますと、現在無収入になってしまっているとしても、潜在的稼働能力があれば、婚姻費用や養育費の支払いを免れることはできません。この場合、潜在的稼働能力に応じた収入を認定して、婚姻費用や養育費を算定することになります。潜在的稼働能力の有無や程度については、学歴や資格の有無、過去の就労歴や経験、年齢、健康状態、就職活動の状況、監護している子の年齢や健康状態、再就職が困難な事情の有無等の具体的事情に照らして、判断されます。
また、退職の経緯も重要な判断要素のひとつとなります。たとえば、婚姻費用や養育費の支払いを免れようとして退職した等の事情がある場合、潜在的稼働能力があるとみなされる可能性が高くなります。支払いを免れるために退職したかどうかは、退職の時期、退職理由、退職前後の義務者の言動、新たな就職先を探す努力の程度等から判断されます。
潜在的稼働能力があると判断された場合、その潜在的稼働能力の程度に応じた賃金センサスを用いるなどして、収入が認定されます。また、退職前と稼働能力が変わらないと判断されれば、退職前の収入がそのまま認定されることもあります(退職前と同様の業務につけない事情がなく、ただ強制執行を免れるためだけに退職した場合等)。

 

離婚紛争中・離婚後の面会交流

離婚した夫婦に未成年の子どもがいる場合には、子どもを引き取らなかった親(親権者いならなかった親)は子どもと一緒に暮らすことが出来なくなります。この状態を放っておくと、親権者とならなかった方の親は、そのまま一生子どもと会えなくなるおそれもあります。このように、離婚によって親と子どもが引き離されることは、子どもにとっても大変な不利益です。
そこで、離婚する場合には、親権者(監護者)とならなかった親と子どもの間に面会交流権が認められます。面会交流権とは、子どもと別居状態にある親が、子どもと会う権利のことです。
面会交流権は、親だけではなく子どもの健全な成長のために必要なものであり、子どものための権利でもあります。

離婚後の面会交流を定める場合、離婚前に夫婦できちんと話し合いをして決めておくことが大切です。
離婚後にあらためて話し合おうとしても、お互い連絡が取りづらくなって話し合いが出来ないことも多いですし、話し合いを継続している間、親と子どもが会えない期間が長引いて、子どもにも悪影響を与えてしまいます。
よって、面会交流について定める場合には、離婚前に夫婦が話し合って決めておきましょう。
面会交流方法については、特にこうしなければならないという決まりはありません。頻度も、月に1回程度が標準的と言われますが、子どもの年齢や状態、親子関係などに鑑みて、個別のケースで自由に設定することが可能です。
毎週会う内容でもかまいませんし、3か月に1回などでもかまいません。また、会う時間も2時間でもかまいませんし、半日でもかまいません。1年に数回は宿泊を伴う面会を入れても良いです。何が子どものために一番良いのかを考えながら、具体的な面会交流方法を決定しましょう。
また、面会交流の方法を決める際には、それが子どものためのものであることを忘れてはなりません。たとえば、子どもの予定や都合を無視して、親の都合で無理矢理子どもを連れ出しては、何のための面会交流かわかりません。
面会交流を行う際には、子どもの都合や気持ちを優先して、子どもの健全な成長のために役立つような面会交流方法を心がけましょう。

親同士で話し合いをしても、面会交流方法を決められない場合があります。子どもの監護者となっている方の親が、面会交流を一方的に拒んでいることもあるでしょう。このような場合には、家庭裁判所で面会交流調停を行うことによって、面会交流方法を話し合い、決定することが出来ます。面会交流調停では、裁判所の調停委員が間に入って話し合いを進めてくれるので、当事者同士ではもめてしまうケースでも、話し合いをすすめることが出来ます。子どもが面会を嫌がっているなど、子ども自身の状態が問題になっている場合などには、裁判所の調査官が調査をして、子どもの状態や気持ちなどを確かめてくれることもあります。
もし調停でも話し合いがつかず、面会交流方法を決められない場合には、担当の審判官(裁判官)が審判を出して、個別のケースに応じた面会交流方法を決定してくれます。

最後にですが,子と同居していない親は面会交流を求めていくと思われますが,子と同居している親も面会交流にはついては柔軟に検討すべきです。前回のブログでも触れましたが,面会交流の許容の有無は親権の判断の参考要素になります。子の利益を考えて子のためにどうするべきかという視点から物事を判断していきましょう。

離婚紛争時の子の連れ去りについて

離婚の際に夫婦の間に子がいるとき,夫婦の一方が子を連れ去る場合があります。親権判断の際に子を実際にどの程度継続して監護・養育しているのか(現状・継続性の尊重)という点が重視されることもあり,子を連れ去り自身の手に置こうと考えるケースがあります。そこで,今回は子を連れ去った場合の影響と子を連れ去られた場合の対処方法について述べたいと思います。

1 配偶者が子を連れて別居をしたケース

結論として,不利にならないのが通常です。特に,それまで主に子供の養育をしていた親(日本の現状では多く母)が子供を連れて出た場合には,不利になりにくいです。別居が避けられない状態になっている夫婦では双方にストレスがかかっていて,子供の心身の健やかな成長にも悪影響を及ぼしており,夫婦が別居することが子供にとっても良いことが多いです。どちらの親と住むかは別にして,別居は,「子の利益」にもつながることといえます。子連れ別居を強行したとしても,やむを得ないこと,子の利益につながることをしたという面があります。また,主に養育をしていた親がその後も一緒に住むことは,そうでない親と一緒に住むよりも「子の利益」になることが多いです。したがって,主に養育をしていた親が子供を連れて別居したときには,さらに,不利になりにくいと言えます。加えて,一方の親にDVやモラハラがあったり,子供への暴力(児童虐待)があったりするときには,そのような親から早く離れたことが,子供の利益を実現した行為ということになりますので,子の連れ去りはさらに問題視されないことになるかと思います。

もっとも,連れて出たときの状況やそれまでの経緯によっては,不利に働く可能性があります。
まず,子供の利益を考えないような行動は不利に評価される可能性があります。 子供がはっきりと自分の意思を示せる年齢にもかかわらず,その意思を確かめずに突然実家に連れて帰る 場合,子供が絶対にこの場所を離れたくないと言っているのに連れて出る 場合,普段全く子供の面倒をみていなかったにも関わらず急に連れて出る 場合です。また,話合いができたのに配偶者と全く話合いをせずに急に子供を連れて家を出たという場合にも,不利に働く可能性があります。以前はあまり問題とされていませんでしたが,最近は,同居して生活しているという「既成事実」獲得の目的で子連れ別居しているのではないか,そのような目的による子連れ別居を放置して良いのかという問題が生じています。そして,日本がハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)を批准したことから,特にその問題意識は高まっていると思われます。ハーグ条約は,子供の連れ去りが,子供にとってそれまでの生活基盤が突然急変するほか,一方の親や親族・友人との交流が断絶され,新しい環境へも適応しなくてはならなくなる等,子供に有害な影響を与える可能性があるとの考え方に立っています。そのような子供への悪影響から子供を守るため,原則として元の環境へ子供を戻すべきものとしています。そのため,話合いができるのに話合いを全くせずに,突然子供をを連れて家を出る場合には,親権者としての適格性が問題になり,不利になることもあり得ます。

2 配偶者が子を連れだして別居をしたが,その状態が長期間継続したケース

子供は,同居している親と精神的結びつきが強くなり,別居している親とは精神的結びつきが弱くなります。
また,環境についても,家出のときには,子供の生活環境が急変し,友人との交流が断絶するなどの悪影響があっても,時間が経つと,子供は新たな生活環境に馴染み,新たな友人もできていって,悪影響を取り除く必要が薄れていきます。逆に,再度,生活環境を変えることによるデメリットを考えざるをえなくなります。
そのため,別居期間が長引くほど,「子供は今の親との生活(別居後の生活)に馴染んでいる。現在,一緒に住んでいる親は子供の面倒をしっかり看ていて,特別な問題は無い。何度も環境を変えるのは子供の利益にならない」という判断から,同居親が,親権者として有利である,という判断になりやすいのです。
子供と離れて暮らしている親に,別居前に主に養育していて監護実績があり,経済力もあるとしても,不利になっていきます。もともと親権者として有利な立場にあったのに,不利になっていくのを防ぐには,「子の引渡しの審判」を素早く行うことがとても重要になります。

3 別居後に一方の親と暮らしている子を連れ去るケース

このようなケースでは,通常,連れ去りは,全く必要性のない行為です。また,別居した場合,子供は同居している親との生活環境に馴染んでおり,他方の親とは完全に離れた生活を送っています。連れ去りにより,それを突然変えることは,子供の不利益も大きいです。そのため,このような連れ去りは,相手方の同意が無い限り,原則として違法とされ,親権者としては不利に働きます。

もっとも,このような連れ去りのケースでも,連れ去った親と子の同居期間が長くなればなる程,連れ去った側に親権が認められやすくなる可能性があります。不利になっていくのを防ぐには,「子の引渡しの審判」を素早くすることがとても重要になります。裁判所がこのようなケースでの連れ去り行為を認めてしまうと,子供の奪い合いなどが繰り返され,自力救済を認めることになりかねません。そうなれば,子供は,親が自分を奪い合う様子を見せられたり,短期間に何度も環境を変えられるたりするため,心への悪影響があります。そのため,子の引渡が認められる可能性が高いと思われます。

4 親権の判断で不利にならないようにするための対応

➀ 子を連れ去った側

面会交流の不当な拒絶は,親権を取るのに不利に評価されます。相手方(夫,妻)から求められれば,できる限り,面会交流をさせることが必要です。面会交流については別の機会で述べます。

② 子を連れ去られた側

親権者として不利にならないよう,一刻も早く,子の引渡しの審判をする必要があるでしょう。
その別居に至った状況,連れ去られた際の状況によっては,これらの申立が認められない場合もあり得ますが,それでも,早期に子供との交流ができるように,子の引渡の手続きの中で裁判所に求めていくのがよいでしょう。
子の引渡の申立をした場合,すぐに子供を戻してもらえるようにならなくとも,早めに面会交流だけでもさせてほしいなどと裁判所で伝えていくこともできます。
場合によっては,別途,面会交流調停の申立をすることも検討すべきです。
子供との交流,つながりが全く無い状況が続けば続くほど,親権者として不利になっていきます。

離婚・親権について不明な点があれば一度仙台駅前法律事務所まで問い合わせをしてみてください。

離婚後の親権について

離婚を検討する際に子どもがいる場合は親権者をどちらにするかを検討する必要があります。配偶者の一方が子供にあまり興味がなければ特に争いになりませんが,そのような事例は少なく,基本的に親権争いはかなりの長期戦になり,短期解決は正直あまり見込めません。では,長期の争いの末に親権はどちら側に決まるのでしょうか。

まず,最初にお伝えしたいのは,必ず親権を取れる方法というものは無いということです。
父母のうち,子供の親権者となれるのは1人ですから,いくら努力しても成果につながらないことがあります。
また,親子の関係は,離婚調停前の長い年月により築かれており,短期間に激変させることができません。

1 親権の判断基準

裁判官(家事調停官)・調停委員・調査官は,難しい用語で「子の福祉」を重視すると言っていますが,要するに「子供の幸せ」の観点から親権を考えようとします。
つまり,どちらの親と生活する方が子供にとって幸せになりそうかというのが裁判所が親権者を父母のどちらにするかの判断基準となります。具体的には,以下の事情を考慮します。

① 現在子供と同居しているか,どのように養育に関わっているのか。別居しているのであれば,その経緯,理由。今後同居は可能なのか。

② 10歳前後からはどちらと住みたいかという子供の意思の重視

③ 勤務状況,子供が病気の場合の対応が可能か等

④ これまで子供が住んできた環境を維持できるのか。実家に連れて帰る場合は,なぜその方が良いのか。

⑤ 実家で同居して自分の親が助けてくれる,近くに親族が住んでいて協力してくれること

⑥ 自分の方が財産・収入が多い,自分と生活する方が経済的に豊かな生活ができる,ということ。養育費,児童手当等の福祉的給付もふまえて考える形になります。もっとも,この点はそこまで重視されないです。

⑦ 同居している場合は,子供が相手と会うことを認めているか,会わせているか。別居している場合は,もし,自分が親権者となったら会わせるつもりがあるのか 。

⑧ これまでの子育ての実績(時間・内容) ,子供の塾の送迎,病気の対応,学校行事への参加,洗濯,食事など,具体的にどのように関わってきたのか。

以上の点を裁判所に具体的にPRしていき,自身が親権者になった方が子が幸せであると主張していくことになります。

2 家庭裁判所の調査官調査の対応

離婚調停中に,親権者としてどちらがふさわしいかについて,家庭裁判所調査官による調査が行われることがあります。
調査官も人間ですから,間違うことはあります。しかし,多くの場合,調査官の出した結論は,正しい結論です。そして,裁判官や調停委員には正しい結論であると受けとめられます。
調査官調査をする場合には,調査結果が出たときに,自分の希望と異なる結果であっても,受け入れようという覚悟を持って,調査官調査に臨む必要があります。

① 社会常識ある態度で対応する

礼儀正しく調査官調査に協力する,調査官との約束の時間に遅刻しない,調査官が家庭訪問に来るときには掃除・整理整頓をしておくといったことは,社会人として当然のことです。神経質になる必要はありませんが,あまりにも社会のルールが守れない,不潔であるということですと,子供を正しくしつけられないと見られても仕方がありません。

② 有利な事実をしっかりと説明する

有利な事実はしっかりと説明し,否定できない不利な事実はフォローできるようにしておきましょう。
子供の幸せのために,自分が,これまで何を考え何をしてきたか,現在何を考え何をしているのか,将来どうするのか。
過去に子供に暴力をふるったなど,子供を不幸にさせた行為・態度を否定できないのであれば,その原因と今後の対策をどのように考えているのか。
相手に,子供を不幸にさせるような行為・態度・事情として,どのようなことがあったか。
子供と別居していて,相手が適切な養育をしていないと思われる場合には,調査官に特に調べてきてほしい事項を具体的に話しましょう。

③ 普通のことも具体的に説明できるようにする

子供とどのように関わってきたのかと尋ねられると,説明が難しく,「普通の父親のように」「普通の母親のように」となりがちです。
普通のことを普通に行うことも適切な養育です。
普通だと思っても,その普通にやってきたことを具体的に説明できるようにしておく必要があります。

④ あなた,子供,同居家族のタイムテーブル

通常,裁判所からの指示により,曜日別の,自分,子供,同居家族の生活のタイムテーブルを書いて提出することになります。
特に,子供と同居している人は,タイムテーブルで,適切な養育ができているかがチェックされていると思って下さい。
長時間自分で子供の面倒をみるのが良いということではありません。保育園,自分の親などの活用があるのは通常のことです。子供との関わりが薄すぎたり,肝心のところができていなかったり,子供の生活の乱れが放置されているようであれば,問題ありということになります。
調査官調査が始まってからでは遅いので,事前に改善しておいて,問題視されないようなタイムテーブルを提出できるようにしてましょう。

3 一方配偶者が不倫をしていた場合の親権判断への影響

通常は配偶者の有責性,すなわち,不倫をしていた事自体で親権判断に影響が生じることはありません。なぜなら,親権判断基準はどちらを親権者にする方が子にとって幸せかという点でするものであり,不倫をしていたこと自体が子の福祉の判断に影響を与えることはないからです。もっとも,上記で親権判断基準で述べましたが,今までの子の監護の実績・現在の監護状況が親権の判断要素となるところ,不倫相手に熱を入れすぎるばかり育児を放棄したといえるような事情があればこの事情は親権判断にとって不利な方向に働きます。

 

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離婚紛争時の婚姻費用について

離婚が争いになっている場合には別居期間が長期にわたっているか(5年程度,状況によっては3年程度)が離婚を裁判でできるかどうかのポイントになります。しかし,別居期間において生活費の確保も問題になりますし,裁判ではなく協議や調停で早く離婚をしたいと思われるのが通常かと思います。その場合は婚姻費用を迅速に請求し,配偶者へ兵糧攻めする形をとります。今回は生活費の確保,離婚を進めるうえでの交渉カードとなる婚姻費用について説明します。

婚姻生活を維持するために、婚姻から生じるすべての費用のことを「婚姻費用」といいます。
「衣食住にかかわる日常の生活費」、「子どもの養育費」や「学費」、「娯楽費」、「交際費」、「医療費」、「葬祭費」などが婚姻費用の具体的なものとしてあげられます。通常、夫婦が円満に婚姻生活を過ごしている場合は婚姻費用の分割について思慮する必要はないですが、婚姻生活が破綻して夫婦が別居した時や、同居中にもかかわらず生活費を入れないなどの場合に、婚姻費用の分割問題が発生します。
法律上では、婚姻関係が破綻した状況でも、離婚が正式に成立するまでは婚姻関係は続いています。
つまり、「別居中だから生活費を渡さない」ことは許されることではなく、離婚の裁判中に別居していても、別居の理由が夫からの暴力を避ける為であっても、婚姻費用分割の義務は生じることになります。

婚姻費用分担請求の流れですが,一般的には、婚姻費用分割の支払い金について、まず夫婦で話し合いをします。
話し合いで合意に達しない場合には、調停を申し立て第三者を交えて協議します。
調停でも話し合いがまとまらなかった場合には、裁判所の審判に移行となり、裁判官が総合的に判断して費用分担の決定をします。

婚姻費用の金額の目安はこちらを参照にしてください。 http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf

離婚の結論自体が争いになっている場合に考えるべきこと②

1 婚姻を継続しがたい重大な事由

協議や調停で離婚が合意できず,裁判になった場合は離婚原因が認められなければ離婚ができませんが,民法は抽象的な離婚原因として「その他婚姻を継続した難い重大な事由」を挙げています(民法770条1項5号)。
不貞行為等が証拠により立証できなくても,これに該当するといえれば離婚につき合意できなくとも裁判で離婚ができることになります。「婚姻を継続し難い重大な事由」とは、婚姻共同生活(夫婦関係)が破綻し,その修復が著しく困難な事由をいいます。
これは,夫婦が婚姻を継続する意思を失っており(主観面),夫婦関係を修復することが不可能である状態(客観面)を指します。
このような視点から,裁判所は何が「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかを下記の通りに個別のケースに応じて判断することになります。

2 DV

ドメスティック・バイオレンス(DV)という言葉でも知られる 「暴行・虐待」は、身体的な暴力だけでなく、無視や暴言などの精神的な暴力も含まれます。裁判においても、DVが原因で離婚が認められることがありますが、その際には証拠が必要 です。 具体的には,DVにより怪我を負った場合に通院した病院の診断書やカルテ類,110番通報をして警察が出動したケースでは警察の調書が残っている可能性もあるので警察に調書の開示をして証拠としていくことも考えられます。また,直接的にDVの相談をしていなくとも,子供のことを保健所に相談しに行った際に配偶者からの暴力について話をしたり,アザがあったことを調査員が記載しているケースもありますので,過去に相談をしたことがある場所においてその機関が保存している情報の開示が受けられないか検討することも考えられます。なお,暴力であっても,軽微な場合は,離婚原因として認められないことがあります。他方,一定以上の身体的暴力は,刑法上暴行罪,傷害罪として犯罪とされますが,このようなレベルの暴力であれば,離婚原因となる可能性が高いです。精神的暴力については明確に深刻な内容,程度ではないと離婚原因にはならないと思います。

3 性格の不一致や価値観の違い

性格の不一致や価値観の違いは,多かれ少なかれどの夫婦にも見られることですから,それだけでは離婚原因と認められません。他の事情によって婚姻関係が破綻しているといえる場合のみ離婚原因があるとして裁判で離婚ができます。具体的には一定期間の別居と合わせて主張していくことになるかと思います。

4 セックスレス

最高裁(最判昭和37年2月6日)は夫婦の性生活は婚姻の基本となる重要事項としているくらいですから,セックスレスという事実自体が婚姻を継続しがたい重大な事由として離婚原因に該当する可能性はあります。どれくらいの期間セックスレスであれば離婚原因に該当するかという点が次に問題となりますが,特に一般的な基準はないかと思います。福岡高判平成5年3月18日では,被控訴人と控訴人との性交渉は入籍後約5か月内に2、3回程度と極端に少なく、平成2年2月以降は全く性交渉がない状態であるのに、反面控訴人自身はポルノビデオを見て自慰行為をしているのであって、性生活に関する控訴人の態度は、正常な夫婦の性生活からすると異常と離婚原因を認定していますが,特殊な事例かと思います。なので,セックスレスだけでなく他に原因があれば複合的に離婚原因を主張していくべきかと思います。

5 モラハラ

モラハラの事例としてよく紹介される精神的に侮辱的な発言ですと、それだけで離婚理由として認められるのは難しいのではないかと思います。
なぜかというと、日常的なやりとりの文脈の中で出てくる問題ですから、その一言一言を取り上げて、「こんなひどい暴言がありました、だから離婚したいんです」と主張しても、なかなかそれだけでは裁判所としては離婚理由とは判断しにくいと考えられるからです。「死ね」とかそういうことを日常的に言っているような場合は別ですが、ただ単に「お前はバカだな」等(そのくらいの発言がひどいかどうかは別として)、それだけではななかな難しいと思われるところです。ですので、そういう意味で考えると性格の不一致と同じような扱いを受けてしまうので、離婚するためには別居期間を重ねて離婚を認めてもらうという方針になるでしょう。他方で、モラハラの例として挙げられているものとして、「精神的な不安定さが非常に強くて飛び降り自殺をしようとしてしまう」とか、「リストカットが止まない」とか、場合によっては「夫に向けて包丁を持ち出してくる」といった行為が度重なっているというケースがあります。このようなケースでは、具体的な行動の中身等をふまえて主張することで離婚が認められてくる可能性もあると思っています。

6 不貞に類する行為

不貞とまではいえないが,配偶者以外の異性と親密な関係にあり,それを理由に婚姻関係が破綻したといえる場合も「婚姻を継続しがたい事由」として離婚原因に該当する可能性があります。

7 配偶者の犯罪行為

配偶者が犯罪を犯したことを理由に即離婚原因が認められるわけではなく,犯罪行為の内容や程度,配偶者の犯罪行為により婚姻生活に重大な影響を及ぼしたかどうかで離婚原因が認められるかと思います。重大な犯罪行為であれば認められやすいのではないかと推測します。

8 配偶者の不労・浪費・借財

前回に触れた悪意の遺棄として離婚原因を主張していくことも考えられますが,そこまで至らなくとも家庭生活の経済的基盤を破壊する程度に仕事をしない・浪費や借入を繰り返すということであれば5号の婚姻を継続しがたい事由として離婚原因に該当する可能性があります。

9 長期間の別居

性格の不一致や軽微なモラハラ等それだけで離婚原因といえるか微妙な案件については長期間の別居を合わせて離婚原因を主張していくことになります。長期間の別居という事実があれ婚姻関係は継続しがたい事由として離婚原因が認められる可能性は高いです。どれだけ別居していれば婚姻関係の破綻が認められるかに関しては法律上基準というものが全く定められていません。ですので、何年になったらよいか、何年別居を続けたら離婚ができるかというご質問に対しては正確にはお答えすることができません。ただ、参考になるのが平成8年に出された法制審の「民法の一部を改正する法律案要綱」というものです。この中で、「別居が5年以上継続している場合」が離婚原因に追加されておりますので、5年別居が続いていた場合には離婚を認めてもいいんじゃないかというのが、実務上の考え方としてあるといえます。短いケースでは3年の別居で離婚原因が認められたケースもありますが,婚姻期間中の同居期間より別居期間の方が長かったりその他の事情を考慮して3年の別居で離婚原因が認められていると考えた方がいいかもしれません。

 

離婚について話し合いで解決できなさそうであれば,一度仙台駅前法律事務所まで問い合わせてください。

離婚の結論自体が争いになっている場合に考えるべきこと①

離婚の紛争では色々なパターンがあります。離婚・親権では揉めていないが財産関係や慰謝料等で揉めているケースもあれば,離婚自体は双方納得しているが親権で泥沼の争いになっているケースもあります。今回は夫婦で離婚自体の結論に争いが生じているケースについて考えていきます。

離婚自体の結論に争いがある場合,まずは話し合いで解決できるか探る形になります。それが無理であれば,調停の申立てをすることになります。調停でも双方が離婚の結論に合意できなければ,裁判で強制的に離婚することを考えていくことになります。なので,相手方が離婚に反対しているときは仮に調停で解決できなかった場合は裁判で離婚が可能かどうかを頭の片隅に入れておく必要があります。裁判により離婚が認められるためには法定の離婚原因(民法770条1項1号~5号)が存在する必要があります。この離婚原因が自身のケースで存在するかを離婚を決意した時点で一応検討しておく必要があります。

① 不貞行為

法律では、離婚の原因となるパートナーの不倫を「不貞行為」と呼びます。判例では,不貞行為を「配偶者のある者が、その自由意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係を持つこと」と定義しています。ここでは,相手方の自由意思は問題になりません。つまり、パートナーと相手方との間に性的な関係があったかどうかが不貞行為として問われる部分になります。
しかし、不貞行為は人に見えるような場所で行われるものではないので、その関係を証明するのは困難です。週刊誌に写真を掲載された芸能人のように「一緒に食事をしていただけ」などの主張をされてしまったら、それ以上の追及はしづらくなります。では、どうやって性的な関係があったことを証明したらよいのでしょうか。通常、不貞行為を証明する直接的な証拠が存在するケースはほとんどありません。そこで、多くの場合、前後の状況で判断できるものを証拠として不貞行為を証明することになり、実際の裁判においても,そのような証拠に基づいて不貞行為の存在が認められています。

不貞行為の証拠については https://sendai-furinisharyou.jp/isharyou#note-evidence

なお,不倫・不貞行為があった場合(離婚を決意しているケース)は100万から300万円の慰謝料請求できる可能性があるので,実際に全力で回収するかどうかはともかく,離婚のための手持カードとして当然に検討すべき事項でしょう。

② 悪意の遺棄

離婚原因と法定されている「悪意の遺棄」とは、簡単にいうと、夫婦の一方が悪意をもって相手方配偶者を見捨てることです。悪意があるというためには、単にその行為による結果を認識しているだけでは足りず、夫婦関係を破壊してやろうという積極的な意図があったり、夫婦関係が破たんしてもかまわないという意思が必要だと考えられています。悪意の遺棄の代表的な行為は、正当な理由なしに家を出て別居することです。そして、今まで渡していなかった生活費を一切支払わなくなるなどのケースがもっとも典型的です。
例えば、夫が妻に断りなく突然家を出て行き、妻にいっさい生活費を支払わないなどの行動をとると、それは悪意の遺棄と評価されます。
この場合、妻は悪意の遺棄を理由として夫に対して離婚請求することができます。
ただ、家を出て行ったとしても、正当な理由がある場合には悪意の遺棄は成立しません。例えば病気療養のために別居をしたとしても、そのことが悪意の遺棄と評価されることはないのです。なお,婚姻期間が長ければ長いほど、突然家を出て行った場合の悪意の遺棄は成立しやすくなるかと思います。ただ、裁判例には、結婚後2ヶ月でも悪意の遺棄を認めたものもあります。

また,悪意の遺棄があった場合、遺棄された配偶者は、離婚の際、相手方配偶者に対し、慰謝料請求をすることができます。
悪意の遺棄があった場合の慰謝料の金額は、婚姻期間や別居期間、生活費不払いの程度や期間などにもよりますが、相場としては50万円~200万円程度となるかと思います。

③ 3年以上の生死不明

「3年以上の生死不明」とは、相手方配偶者が生死不明のまま連絡を絶って、音信不通になっている場合です。例えば家出や事故、災害などで一切連絡が取れなくなる場合などがそれに該当します。生死不明であることが必要なので、生きていることはわかっているけれども行方不明などの場合には、これには該当しません。この場合の3年の計算は、最後に相手方配偶者と連絡をとったり音信があった時点,つまり相手方配偶者の生存が確認された最終時点から開始します。相手方配偶者が最終的に消息を絶ってから3年が経過した時点で、3年以上の生死不明が認定されることとなります。離婚訴訟において3年以上の生死不明による離婚を認めてもらうには、本当に3年以上生死不明となっている証拠が必要です。裁判では、証拠により裏付けられない事実は認定してもらうことができないからです。
その証拠としては、例えば,警察への捜索願やその受理証明書、相手方配偶者の元勤務先,友人・知人による陳述書、これらの者の証言などが考えられます。警察に捜索願を出して精一杯探す努力をしたがどうしても見つからなかったということを示したり、勤務先や友人・知人から「〇〇氏については、いついつ以来1度も見かけていない、連絡していない」と陳述してもらいます。相手方配偶者が事故や災害によって生死不明になってしまった場合には、その事故や災害に関する資料や、相手方配偶者がそれに巻き込まれた可能性が高いことを示す資料なども必要になります。

④ 回復見込みのない精神病

回復見込みのない精神病とは、統合失調症や躁うつ病、早発性痴呆や麻痺性痴呆、認知症やアルツハイマー病、偏執病、初老期精神病などが代表的な症状です。重度の身体障がい者の場合にも、この要件を満たして離婚が認められることもあります。
これらに対して、アルコール中毒や薬物中毒や劇物中毒、ヒステリーやノイローゼ、精神衰弱などは回復見込みのない精神病という場合の「精神病」にはなりません。これらを理由として離婚することはできないことになります。 このように、回復見込みのない精神病を考える場合、まずはどのような精神病や症状の場合に離婚が認められるのかという点を抑えておくことがポイントになります。 「回復見込みのない精神病」を理由とする離婚が認められるためには、いくつかの条件があります。重要なのは、単に相手方配偶者が不治の精神病にかかったからといって、その一事だけをもって離婚できるわけではないのです。
回復見込みのない精神病の要件で離婚するためには、 ①治療が長期間に及んでいること ②離婚を求めている配偶者が、それまで誠実に療養看護したり、生活の面倒を見てきたこと ③離婚後に看護する人や療養費用に関する対処が必要となります。

なお,相手方配偶者が回復見込みのない精神病を患っていることから、同人の判断能力の有無が問題になってきます。相手方配偶者が植物状態などで、自分で訴訟活動を行うことができない場合があるからです。 このような場合、まずは、相手方配偶者について後見開始の審判を申し立て、相手方配偶者に成年後見人をつけてもらう必要があります。成年後見人とは、判断能力の無くなった人の財産管理や身上監護をする人のことで、裁判などでは本人の法定代理人になります。
後見開始の審判申立ては家庭裁判所で行い、家庭裁判所が成年後見人を選任します。成年後見人が選任されたら、その成年後見人を法定代理人として、相手方配偶者に対し、離婚訴訟を提起することになります。

 

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裁判離婚について

夫婦が離婚する場合、最も多い例は、夫婦が離婚することに合意をして、「離婚届」を役所に提出する「協議離婚」です。
夫婦で話し合っても離婚及びその他の事項について合意ができないという場合には、いきなり離婚訴訟を提起することはできず、まずは家庭裁判所に対して離婚の調停を申し立てることが必要になります。これを「調停前置主義」といいます。
もっとも、調停は家庭裁判所で行われるとはいえ、基本的には話し合いで解決する場面ですから、離婚すること自体や離婚の条件に関して、当事者間で話し合いがつかず、合意に至らないないケースも存在します。 このような場合には、調停は不成立となりますので、調停手続で離婚することはできないということになります。
調停が不成立になったとしても、なお当事者同士の話し合いにより「協議離婚」をする余地はあります。 しかし、調停不成立という状況まで至っているということは事者間によほど激しい対立があるということですから、これ以上、話し合いで解決することは通常困難です。
そこで、このような場合に離婚を求めるには、家庭裁判所に離婚訴訟(離婚の訴え)を提起して、離婚を命じる判決を下してもらうということになります。 離婚を命じる判決では、離婚それ自体に対する判断のほか、未成年の子が存在する場合にはその親権の帰属についても判断されます。 また、離婚の訴えに附帯して、慰謝料や年金分割などの請求もできますので、それらの請求をしている場合にはそれらに関する判断もされます。 このように、裁判離婚が必要になるケースは、離婚や離婚の条件について夫婦間に激しい対立があり、互いの話し合いでは到底解決出来ない場合に限定されるといってよいでしょう。

なお,離婚訴訟を提起しても、必ずしも裁判離婚にならないことがあります。それは、離婚訴訟の過程において、「裁判上の和解」が成立することがあるからです(人事訴訟法37条1項)。
訴訟を起こした当初はまったく譲歩する気持ちがなくても、訴訟は時間がかかりますので、手続が進んでいく過程の中で、お互いの気持ちが変わってくることがあります。
このような場合、裁判所による説得なども加わって、裁判上の和解をすることがあります。 訴訟提起後に裁判上の和解で離婚が成立した場合には、裁判離婚ではなく「和解離婚」になります。 和解離婚の場合、裁判上の和解をした日に離婚が成立します。
ただ、調停離婚や裁判離婚の場合と同様、離婚したことを戸籍に反映させるため、和解期日後に裁判所から送られてくる「和解調書」と「離婚届」を役所に提出する必要があります。

最後に,裁判離婚をする場合には注意すべき点があります。
それは、裁判離婚をすると、戸籍に「…離婚の裁判確定…」という記載がなされることです。 戸籍は、自分以外の人が目にする機会があります。再婚する際などに、再婚相手に見られることもあるでしょう。そのような場合に、「前の結婚の際に裁判までして離婚した人だ」と意地悪く思う人がいないとも限りません。もっとも、そのようなことを気にしない人も多いと思います。ただ、このようなことが気になるという人は、出来れば協議離婚、それが無理でも調停で離婚を解決しておいた方がよいかもしれません。